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くつろぎタイム2023年6月号を発行しました
くつろぎタイムでは、おすすめの書籍を紹介します。
家康のドラマをみながら 司馬さんを思う
今年は司馬遼太郎さん生誕100周年です。司馬さんは、1923年8月7日に、大阪市で生まれました。お父さんは薬局を経営していた薬剤師でした。19 42年、19歳のときに大阪外国語学校蒙古語部(現・大阪大学外国語学部)に入学しますが、翌年、学徒出陣。
1944年、満州に展開していた戦車隊に小隊長として配属されますが、その後、本土決戦のため帰国し、陸軍少尉として栃木で終戦を迎えました。
25歳で産業経済新聞社に入社、33歳のときに応募した『ペルシャの幻術師』で講談倶楽部賞を受賞し、小説家デビュー。1960年、37歳のときに『梟の城』で第42回直木賞を受賞します。翌年、新聞社を退職。1962年、39歳のときに『竜馬がゆく』や『燃えよ剣』の連載を開始し、1971年から『街道をゆく』の連載を開始しました。
司馬さんはたくさんの歴史小説を世に送り出しました。その中で、【家康三部作】と呼ばれる作品があります。『覇王の家』『関ヶ原』『城塞』(すべて新潮社)の三作品のことです。
『覇王の家』は、家康の幼少期から、本能寺の変で信長亡き後、天下人へと昇りつめていく秀吉と戦った【小牧・長久手の戦い】までをメインに描いています。大河ドラマのように、小心者で何事にも慎重な家康が描かれていますが、秀吉と対戦する家康の知略には目を瞠るものがあります。戦術で勝ち、戦略では負けてしまいましたが…。
『関ヶ原』は【関ヶ原の戦い】を、西軍大将の石田三成と家臣の島左近を中心に描いていますが、こちらに出て来る家康はまさに知略の権化、豊臣家から天下を簒奪するため、各大名を手懐けていきます。
『城塞』は豊臣家を滅ぼした【大阪の陣】が描かれ、ここに出て来る家康はまさに老獪、あらゆる手で豊臣家を追い詰めていきます。
司馬さんは、1996年2月12日、腹部大動脈瘤破裂のため逝去されました。享年72歳でした。命日は、生前好きだった菜の花に因み、【菜の花忌】と呼ばれています。著者急逝のため、未完の結末を迎えた『街道をゆく43 濃尾参州記』(司馬遼太郎 著 朝日新聞社)は、桶狭間や家康の故郷である岡崎などを旅した記録です。巻末に収録されている『街道をゆく』シリーズで挿画を手がけた津和野出身の安野光雅さんの、司馬さんとの思い出の手記が、ユーモアたっぷりの内容で、司馬さんの愛読者にとっては、逆に涙を誘います。
(司書オサキ)